漫画家の領域を軽々と超えた世界を代表するアーティスト
松本零士氏の名が一躍有名になったのは、『銀河鉄道999』でしょう。アニメの主題歌を歌った「ゴダイゴ」とともに日本を代表する文化的シンボルになりました。
数々の作品を世に送り出し、時にジャパニーズカルチャーの王道、時にサブカルチャーに欠かせない存在として活躍を続けた天才的なアーティストです。
【生い立ち】
福岡県久留米市出身の松本零士氏は、父親が第二次世界大戦中に陸軍少佐にまで上りつめた帝国軍人であり、陸軍航空部隊のパイロットでもあったため、のちに航空部隊のある兵庫県明石市に家族で移り住んでいます。
我々若い世代が学ぶべき日本アニメの歴史には、戦争というテーマや抽象的表現としての神学的要素が多く見られ、また、高度成長期の近未来観のようなものも多く表現されています。
兵庫といえば手塚治氏が生まれ育った場所であり、実際に松本零士氏は手塚治氏の影響を強く受けているそうです。
【ジャパンプライドを近未来的に表した宇宙戦艦ヤマト】
父親の背中を追うように、若しくは父親に真正面からハグされるように松本零士さんの戦争に対するイメージは『宇宙戦艦ヤマト』で花開きました。「YAMATO」という日本のプライドを未来に投影するのは、戦時下にまだ幼かったことから生まれた幻想かもしれません。とびきり素晴らしい幻想です。戦争の相手となる対象への感情は青く、自己実現に関しては極めてストイックな姿勢というのはサムライというよりはプライベートアーミーであり、現代の自衛隊の信念にも繋がります。
そしてご自身なりにこの作品を消化し、新たな視点で描きあげたのが『宇宙海賊キャプテンハーロック』でしょう。この作品で、初めて自身の父親の姿・生き様を第三者的目線で表現できたのではないかと思います。
【激動の1978年】
1978年については『銀河鉄道999』『キャプテンハーロック』『宇宙戦艦ヤマト』が同時にテレビアニメ化されるという、今思えば、良い意味で常軌を逸した状態になりました。
松本零士さんは奥さんも漫画家さんなので、本当に漫画作りに人生を捧げた人なのだとわかります。漫画が好きなのだと。
【今尚世界中を飛び回る日本の誇り】
81歳の松本零士さんは世界大戦の経験者であり平和の象徴であるアニメ文化における最も優れた表現者です。世界中を飛び回って講演を行なっています。また2001年には、フランスの有名なテクノ・グループ『ダフトパンク』と共同でミュージックビデオの制作にも尽力しました。この作品も宇宙的なメッセージをインパクト十分に表現しており、世界中から称賛を浴びました。
ある世代に生まれたことを不幸と思うか、それとも表現者としてのチャンスと捉えるのか。この人物は人の一生でできることの数倍の力を発揮しているように見えます。
新しい松本零士作品を望む前に、この人物の過去のアーカイブを覗いてみてください。2020年に観ても新鮮な感覚が豊かな感動をよびおこすことでしょう。
文章:Shinichiro.S