出典:©2020 UNIVERSAL STUDIOS
第二次世界大戦や米ソ冷戦も集結し、技術・文化共に隆盛を誇った1986年に公開された『アメリカ物語』は、アメリカの自由を題材にしたプロパガンダ的要素の強いアニメーション映画です。
振り返れば初期のミッキーマウスのアニメーションも政治的役割を果たすものであったと思います。
現代では、ピカチュウ然り『ベイマックス』の主人公が日系人だったりと世界的な平和や家庭円満を祈るような作品が多いのですが、この作品を通して描かれるのは「共存」という2文字の言葉の重さと難しさです。
この作品はスティーヴン・スピルバーグが初めてアニメ映画の製作総指揮を手掛けた作品であり、長編アニメーション映画のパイオニア的存在になっています。舞台は1885年のロシアです。
「アメリカには猫がいない」という風の噂を聞きつけたネズミの一家が生まれ故郷のロシアから海を渡ってアメリカに移住するまでの過程を描いた物語です。映画のサウンドトラックが話題を呼び、グラミー賞を受賞したり、アカデミー賞にノミネートされたりしています。
『アメリカ物語』あらすじ
1885年激動の時代にロシアに住むネズミ・マウスクビッツ一家は猫の脅威に怯える日々を送っていました。そんなある日「アメリカには猫がいないから自由に暮らせる」という迷信を聞きつけます。
その話を真に受けた一家は、船でアメリカに移住することを決めました。ドイツの港からアメリカ行きの船に乗った一家は、様々な個性溢れるネズミたちと交流します。しかし、あと少しでアメリカというところで、船は嵐に飲み込まれてしまいます。
主人公の長男ファイベルは好奇心から船底を飛び出して甲板に出た瞬間に波にさらわれてしまいます。空き瓶の中で奇跡的に無事たどり着いたのはニューヨークという街でした。果たして、ファイベルは無事家族と会うことができるのでしょうか…。
上映80分の息をもつかせぬ展開に感動すること間違いなしです。
『家族の絆に涙する』
物語のテーマとしては「多民族国家・自由の国アメリカ」を掲げているようですが、実際には奴隷制度や敵対精神、弱肉強食などの現実を突きつけられる場面が多いです。自分自身の信念がなければ本当の自由は得られないというリアリズムも、まだ子供のファイベルにとっては無情に見えてしまいます。でも、それがアメリカという国なのです。
そして、ネズミだけではなくアメリカに夢を見て集まった動物たちは皆、優しさの塊です。いろんな生き物の力を借りて家族との再会を願うファイベルの姿には感動を覚えます。ニューヨークで家族が最初に接触したのが、猫退治のためのネズミの決起集会です。そこで、本当の敵、本当の自由はそれぞれの心の中にあるものなのではないかと思わせてくれます。
客観的に社会を覗いてしまうと「食って喰われての連鎖」にしか見えないこともあります。しかし、その生態に目をこらすと、違った一面も見えてきます。シビアな社会が引き裂けるほど家族の絆は弱いものではありません。それを身をもって示したのがファイベルなのではないでしょうか。この作品には、アニメーションだからこそ感情移入できる力があります。
俯瞰的ではない船底や壁の穴の中の小さな生命だからこそ家族や仲間との感傷的なシーンが観る人の心に響きます。ファイベルは確かに多様性と心の自由を手に入れたのです。
アメリカに興味がある人に『アメリカ物語』は是非とも見て頂きたい!
『アメリカ物語』の精神は後の『ファインディング・ニモ』や『トイストーリー』など多くのアメリカンアニメーションに影響を与えています。アメリカという国の本質に迫った作品であり、文化的ではありますが決して救世主的な要素は組み込まれていない大人なストーリーです。
アメリカの子供達はこのような現実を目の当たりにして成長していくのだと思うと感動すると共に、自国のアニメーション映画にも比較した見方ができて、アニメーションを通してナショナリズムを感じることが貴重な体験だという思いに至ります。
80年代のアメリカの文化や風潮を感じるために重要な作品としてお勧めします。
文章:Shinichiro.S