出典:©「時をかける少女」製作委員会2006
『時をかける少女』という作品は、1965年に学研『中学三年コース』で連載されていた筒井康隆氏の小説が原作となった、SF作品です。
アニメ版ではSFの基本要素を踏まえながら青春ラブストーリーとして完成されています。2006年7月15日に劇場公開されたこのアニメ作品は、特に若い世代に支持を受け、9か月にわたるロングラン公演となりました。興行収入2億6439万40円を記録し、DVDは15万本の売り上げを記録しました。
主人公は2006年を生きる東京の女子高校生です。2人の男友達と何気ない幸せな日々を送るはずが‥。また、このストーリーの随所に出てくる建造物や施設は実際に存在しているものが多く、映画を見たファンが東京の中野や上野に聖地巡礼に訪れるなど、当時のこの作品に対する影響力は、はかり知れませんでした。
「タイムリープ」と呼ばれる、現実世界の過去へのスキップ能力がキーポイントになっており、3人の絆、そして、間宮千昭という謎の転校生の隠された真実に観客の心は導かれます。
『時をかける少女』あらすじ
主人公の高校2年生の紺野真琴は、医学部志望の津田功介、春に転校してきた間宮千昭といつも3人で遊んでいました。何度となく繰り返される3人でのキャッチボールのシーンが青春を物語っています。ある日、真琴が提出物を理科室に置きに行ったときに、誰もいないはずの理科準備室に人影を見つけます。不審に思った真琴は理科準備室に入ると胡桃(くるみ)みたいなタイムリープマシンが落ちていました。
真琴が転んだ拍子にマシンは破損してしまいます。真琴はその瞬間に白昼夢のような不思議な体験をします。その後、気づくと真琴の腕には何かの模様が刻まれていて、真琴は混乱します。下校途中に真琴は坂道の下り坂で自転車のブレーキを壊してしまい、踏切を大きく飛び越えて列車に激突しようとしていました。
その瞬間、真琴の身に変化が起き、気づくと坂道の途中に時間が戻っていたのです。周囲の人達にタイムリープが起きたことを説明しても、誰も真に受けてくれません。翌朝から色々と試した真琴はいつしか立派なタイムリープの使い手になります。
ある日、真琴は功介に告白されてしまいます。3人の仲が崩れるのを嫌がった真琴は何度もタイムリープして告白されない現実を作ろうとして――。
『人生をやり直す事は…果たして正解なのだろうか?』
最後に千昭が残した言葉「未来で待ってる」の真意は?いつも3人だった高校生活は真琴にとってかけがえのないものでした。そして千昭にとっても同じです。
千昭は「帰らなきゃいけなかったのに、いつの間にか夏になった。お前らと一緒にいるのが、あんまり楽しくてさ…」とも言っています。
真琴は不思議な魅力を持っている千昭に惹かれているように思えます。でも、功介もかけがえのない友人です。
どちらも失いたくない真琴の葛藤が、ある意味子供じみた様子で描かれています。3人は、まだ世間の大人達に守られている年齢であり、いつも自由でいつも真っ直ぐでいつも隠れた切なさを持っています。成長した大人の皆さんが自分の青春時代を思い返して、「もう一度チャンスがあれば、もう一度気持ちを正直に伝えられたら」と振り返ることができるきっかけになるとすれば、この作品は全世代に向けた人生のあり方を問う貴重な作品なのでしょう。そう考えると、この物語は全ての大人たちから子供達に送る切実なメッセージとして、成長期の心理に働きかけるものであり、若い人達に好まれる作品であり続けてほしいと思います。
タイムリープの中で、どの功介が正しい功介なのかと考えさせられます。千昭は自分の運命を悟っているようですが真琴にとってはその運命が何よりも重いものでした。時をかけることが本当に可能ならば、人生をやり直すことが果たして正解なのでしょうか。心の奥まで響く物語でありつつ、「現実には変えられぬ過去」という本質を直感的に掴むことができたなら、さらなる感動を呼ぶ名作です。
『もし、タイプリープ出来たとしたら…自分は自分でいられるのだろうか?』
学研の短編小説から始まって何度も実写化され、細田守監督の元に初めてアニメーション映画化された今作は、時系列や設定が複雑であるにも関わらず、ファミリー層でも楽しめる作品になっています。
とにかく真琴はタイムリープする中で、正直に、自由に振舞おうとするのですが、その研ぎ澄まされた率直な気持ちが、痛いくらいに純粋です。世の中、大概の人は青春時代を振り返って、悔やむことが多いでしょう。
でも特別な能力を持ってないが為の素直さというのもあると思います。もしそんな一般人の感性がタイムリープで更新されることがあったら、人間は人間として、不覚にも備わっているあからさまな裏切りや悪質な欲望の誘いから逃げられなくなるのではないかと想像できます。
しかし、真琴は葛藤し、いろんな障害を乗り越えて自分にとっての幸せを選び続けます。
もし自分に2つの運命があるとするならば、正義感や「好き」という正直な気持ちを謙虚に表現できるだろうかと考えさせられる作品です。
文章:Shinichiro.S