出典:©サマーゴースト
あらすじ
花火をしたら現れると言われている女性の幽霊、通称『サマーゴースト』。
ネットで知り合った友也と涼とあおいの三人は、サマーゴーストに会う為に花火を始める。
三人の前に現れたサマーゴースト———佐藤絢音は、死に触れようとしている人間にしか視えない存在らしく……。
出会った三人
絵を描く事が何よりも好きだが、勉強以外を認めない親に抑圧されている受験生の友也。
温厚で優しい性格だが、スクールカーストに悩み学校でいじめを受けているあおい。
明るい性格でバスケ部のエースだったが、余命宣告を受け突然未来を絶たれた涼。
それぞれ異なる悩みを抱えた三人は、『サマーゴースト』に会う為にネットを通じて知り合いました。
手順通りに花火をする三人の前に現れた『サマーゴースト』こと佐藤絢音は、「自分の事が視えるのは死に触れようとしている人間だけ」と言います。
三人は何故サマーゴーストに会おうとしたのか。何故死に触れようとしているのか。
それに至るようになった各々の事情や心情、そして近況が描写されていきます。
死んだ理由
絢音に会った後、あおいと涼はそれぞれの日常に戻りますが、友也は何度か絢音に会いに行きます。
友也は花火を点けている間は魂だけの状態となり、絢音と共に色んな場所へ行きます。
ふと、友也は「絢音さんはどうして自殺したんですか」と尋ねます。
「サマーゴーストは自殺した女性の霊」という噂でしたが、実情は違いました。
絢音が生前住んでいた邸宅に連れられ、そこで絢音の死因を知った友也は、絢音の体を探す決意をします。
友也は初めて三人が出会った店にあおいと涼を呼び出し、二人の協力を得ようと事情を話します。
しかし涼は絢音の体探しに否定的な態度を取り、店を出て行ってしまいます。
あおいも涼を追って店を出て行ってしまった為、結局友也一人で体探しを始めますが…。
まとめ
40分という短い尺に、事情を抱えた多感な若者達の死生観が惜しみなく描かれています。
主人公である友也は涼のように余命宣告を受けた訳でもなく、あおいのように学校で陰湿ないじめを受けた訳でもなく、自殺願望がある訳でもありません。
成績優秀で模試では全志望校がA判定。周りの大人達からも期待されており、ある意味かなり恵まれている境遇のようにも思えます。
そんな彼が何故死に触れようとしていたのか。それは終盤で明かされますが、そのシーンに至るまでに描写された友也の心情や近況は、彼が死に触れようとした理由として充分に説得力がありました。
『希死念慮』という単語もすっかり聞き馴染みがあるものになってしまった現代ですが、本作はそんな現状を悲観するのではなく、「希死念慮とどう向き合うか」を真摯に描いた作品だと思います。
文章:藤川汐見