出典:©藤子(A)/シンエイ
藤子不二雄Ⓐ氏の名作「笑ゥせぇるすまん」は世間を風刺し、うちに秘めたユーモアセンスが作中でチラチラ見え隠れするような藤子不二雄ワールドにして、異色な作品です。
主人公は喪黒 福造(もぐろ ふくぞう)というセールスマンですがボランティア化活動家とも表現されるようです。この漫画、このアニメを知っている人でも「テレビゲーム」や「実写化」が実現している事実を知っている人は少ないでしょう。
よくよく考えれば同じ原作者の『ドラえもん』についてもその傾向が見られるように、主人公の不思議な力を借りた人の多くが感謝ではなく、悲劇を迎えています。不思議な力も使いようだと視聴者に訴えかけるのが藤子不二雄氏のテーマであり原点なのでしょう。
大人への階段
主人公の喪黒は常日頃、世間の矛盾やふまん、憤りを感じている悲しげな人たちに寄り添いその運命を救う代わりに幾つかのルールーを守るようにと助言します。このルールを守れた人は、幸福に、守れなかった人は、不幸になってしまうのです。
ダークヒーローと呼ぶほど暴力的ではないし、アクティブでもないのですが何故だかそんな代名詞が似合う男です。一応ボランティアと言うことになっているので「客」と表現するのも誤りかもしれませんが、不思議なグッズを対象となる人たちに与えるところも『ドラえもん』と似ています。ただし、ストーリー自体は随分と大人向けな印象でした。
筆者が中学生の頃にこの作品と出会って、世間の光と闇を知らず知らずに学んだことは、有意義だったと思います。
ブラックユーモア
この作品には特に戒めや幸福の掟といったキリスト教的要素が組み込まれていると思います。しかし、それは実践的であり、身近です。そしてこのようなコラムでこの作品を一言で表す時に使われる言葉が「ブラックユーモア」です。
現実社会における必要な柔軟性と社会を風刺するような刺激的な事象がそう表現させるのでしょう。基本的に1話完結であり、喪黒本人の正体は全く見えてこない謎の人物です。喪黒という人物はコーディネーターといった方がわかりやすいかもしれません。他人の人生に介入することがライフワークであり肝心のラストシーンで教訓を見せびらかすようなこともなく、何事もなかったように、いつの間にか姿を消してしまいます。徹底したキャラクター性がこの物語を引き締めているのです。
富野氏の概念を上手く取り込んだストーリー展開
喪黒のモデルはゲーテの『ファウスト』に出てくる悪魔メフィストフェレスなのだそうです。確かにその存在感は天使のそれではありません。しかも喪黒自身の個人的偏見とも取れる理由づけで闇に陥れられるパターンも見られるのです。確かに悪魔の匂いがします。しかし、少年期の世間知らずに対してのインパクトは十分です。
少年達はこうなろうとするのではなくこの人物と向き合うことで世間を知ろうとするのです。筆者が小学校を卒業する時分には噂としてそのような説得力が蔓延していました。おそらく原作者が藤子不二雄という人物だったことも説得力の源になっているのでしょう。
今尚ニーズが溢れているこの作品の魅力が更に現代の少年たちにも強い説得力を持って伝わって欲しいなと思いました。
文章:Shinichiro.S