出典:(C)支倉凍砂/アスキー・メディアワークス/「狼と香辛料」製作委員会
原作は(メディアワークスや角川文庫など多くの出版社を渡り歩いた)電撃文庫レーベルのライトノベル小説です。一度ウケるとロングランになるというライトノベル作品の特徴どおりに、2020年時点で22巻が刊行されている人気作になっています。原作は支倉凍砂(はせくら いすな)さんという方で、今作がデビュー作になります。
この作家さんはVRアニメーション(狼と香辛料VR)やゲーム・漫画等に挑戦するなど積極的にマルチメディアな活動に励んでいます。これほど「メディアの多角化」に意識的なクオリティーの高い作家さんは、アニメ業界でも指折り数える程度だと思います。
狼との出会い
主人公は行商人のクラフト・ロレンスという青年です。ある日、行商人の商売道具・馬引き幌(ほろ)の中に少女のような姿の侵入者を発見します。よくよく話を聞いてみると、「とある村の神さまで農作物の豊作を祈る」のが役割だったのですが、農業技術の進化により自分の役割も終息を迎えたと感じ思わず馬車のほろに乗ってしまったということです。
彼女の名前はホロ。オオカミのような耳にお尻には尻尾がついています。主人公のクラフトはホロとの出会いにより人生観が一変し、二人はホロの故郷までの不思議な旅を続けるのです。因みに『狼と香辛料』の香辛料はクラフトの事を指しています。
共感を呼ぶ神と人間の距離感
ホロは狼の姿をした麦の神様で、今は人間の姿に化身しています。狼の姿では、人を一人丸呑みにするほどの圧倒的な存在感を持っていますが「神様としての目的」がなければただの巨大な獣になってしまいます。
行商人と言えばイエス・キリストを思い出します。人間の行商人についてまわる神様の少女、という設定はライトノベル小説の中でも異端です。しかし、「神様がもし、人間世界を本当に救いたいと思うなら、まずは人間として生きる経験を求めるのでは!?」というテーマは共感できます。
「出逢い」という観点でもクラフトの視点で「出逢いはいつも奇跡である」という訴えを感じ取ることができ、とてもドラマチックな内容になっています。
まとめ
まだまだ続くこの作品が愛おしい気分にもなります。主人公二人が、ピーターとウェンディ的だとも思います。紀元2000年後だからこそ、これほど柔軟な価値観が生まれたのではないでしょうか。私たちの想像力・表現力は確実に進化しています。そして文化的な意味合いでは宗教観も含め今がまさに成長期にあると思います。
その原点としてこの作品の物語の骨格は、ライトノベルだけど絶妙に混沌とした設定の力強さにあると思います。なかなか中毒性のある物語だと思います。
文章:Shinichiro.S