出典:©野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会
物語は基本的に、北海道侵略組(日本国本土の人間)によるアイヌの地に埋蔵された金塊をめぐるエピソードになっています。主人公は杉元佐一(すぎもとさいち)であり、大日本帝国陸軍の特別支援員ということになっています。そんな彼がアイヌ民族に力を貸そうと決めたのは、ヒグマに襲われたところをアイヌ民族に救われたことがきっかけでした。アイヌ民族への尊敬の念を持ちながら、冷静と狂気の間で揺れ動くエリート軍人・佐一の躍動する姿が美しい作品です。
因みに、土方歳三は、『蝦夷共和国』建立のために金塊を追う脱獄囚の設定です。歴史文献からは乖離した設定であるにも関わらずその存在感は何故かそこになくてはいけない一つのピースのようで面白いキャラクターです。
筆者と『ゴールデンカムイ』の出会い
筆者は北海道出身なので、舞台が樺太のこの作品には大いに興味が湧きました。アイヌ民族の特殊性と社会的な位置づけは、小学校時代の特別講師として実際にアイヌ民族の方と触れ合う中で「切実な問題」として学びました。実際にこの作品を貴重な文化遺産として観ることは当然の成り行きだったでしょう。
日本には多くの朝鮮学校があり、朝鮮総連という実力派の民族保護機関があります。対して、アイヌ民族がなぜ現状のような社会的位置付けになったのか、そして彼らのルーツ(Kamuy)とは?
非常に興味深いテーマにより物語は進んでいきます。
時代はめぐる
札幌に住んでいた時に、家の近くに屯田兵の旧宿舎なるものがありました。北海道の開拓の時代に、屯田兵という存在は大きな戦力であり、この作品の原作者、野田サトル氏の曽祖父が屯田兵であったことが、この作品が生まれる大きな要因だったようです。
彼らが生きた時代は日露戦争期で、大変なリスクを負いながら日々の生活に勤(いそ)しんでいたのは、本土からの移民もアイヌ民族も同じだったようです。
今が旬
アニメ化されたのが2018年と、割と最近の作品です。『キングダム』観る前にこの作品でしょう!!と思うのは、筆者のルーツが北海道にあるからかもしれません。しかし、ストーリーが極めてリアルで、当時の独特な空気感や言葉で伝わる文化の逞(たくま)しさがストーリーの躍動感に現れています。
2020年の3月に漫画版21巻が発売予定とされている、今尚注目度の高いとされる作品です。
まとめ
高度な理解力が必要な原作の設定・環境の中で、よくぞここまで一つの作品として作り上げたものだと、感心します。時にユーモアも含み、図書館の歴史書に書かれているアイヌ文化の埋没という単純な構図を裏切るシーンがいくつかあります。「マイノリティーこそがたくましい存在なのだ」と訴えかけてくるようなそのストーリーは、その作品を観る人に確かに勇気を与えます。
アイヌ民族の悲劇的な歴史観を裏切るような、明るい未来をこれから先の展開にも期待したいと思います。
文章:Shinichiro.S