出典:©2019「HELLO WORLD」製作委員会
伊藤智彦氏はもともと『時をかける少女』の助監督や『サマーウォーズ 』の助監督、また、『DEATH NOTE』で監督助手を務めるなど、その実力を十分に評価されてきたアニメーターです。
今回、『天気の子』や『君と、波にのれたら』と同時期に劇場公開が決まったことで、更なる注目を浴び、日本でも指折り数えられるほどの有名なアニメーターになりました。
運命の人を守るため未来からやってきたもう一人の自分
舞台は京都です。主人公は高校生で、クラスでも目立たない読書好きの普通の男の子です。彼の名は堅書直美(かたがきなおみ)。ある日、図書館へ行った帰りに八咫烏(やたがらす)に遭遇し、図書館で借りた本を取られてしまいます。必死で追いかけた先には千本鳥居があり、そこには八咫烏の飼い主である、未来の自分がいました。
未来の自分は「お前はクラスメイトの一行瑠璃(いちぎょうるり)と恋人になり、彼女はじきに命を落とす」と語ります。運命の人を伴侶にするために未来からやってきた自分と情報化され記録が改ざんされる世界で二人の直美はいかにして未来を変えていくのでしょう。
物語の鍵は八咫烏
序盤はインテリジェンスあふれる直美の姿が心地よく表現されており、京都の街並みと景色はリアリティーを持ってうまく表現できているなという印象が強いです。
少し話がズレますが、ファンタジー性を除いた純粋な恋愛ストーリーでも良いのではないかと思うくらい京都の青春が美しく描かれています。序盤から出てくる八咫烏(3本足のカラス)は日本の神事の象徴です。物語の中盤から、このカラスが救世主的な存在になり、ストーリーに重厚感を与えている様子がわかります。
後を引く魅力的なキャラクター達
直美と瑠璃の二人の存在感が何より魅力的ですが、彼らの出会うきっかけとなった図書委員会などにも魅力的なキャラクターが揃っています。勘解由小路 三鈴(かでのこうじ みすず)はクラスのアイドルです。直美は実は図書委員会が始まってすぐの頃には瑠璃よりも三鈴の方に魅力を感じていました。アルタラという都市記憶機構の研究員である千古 恒久(せんこ つねひさ)とその助手であるシュー・イー・イーも個性あふれるキャラクターです。
物語の舞台は東京近郊と限定されていますが、限定された地域とはいっても一般人にとっては生活圏内が世界との接点なわけですから、この作品が『セカイ系』と呼ばれる十分な理由があります。伊藤智彦監督の『時をかける少女』『サマーウォーズ 』で培った『セカイ系』とは何たるや、という経験上の構成テクニックが今作『HELLO WORLD』の特殊性に磨きをかけています。
ハッピーエンドになるのかバッドエンドになるのか、最後まで解らない複雑なストーリーです。
文章:Shinichiro.S