出典:©2004 士郎正宗/講談社・IG,ITNDDTD
映画『イノセンス』は、電脳と呼ばれる頭脳回路のデジタル化により創り上げられた、ゴース トと呼ばれる概念的な『命』の形をテーマにした作品です。舞台は東京、設定された時代は 21 世紀の近未来です。士郎正宗の漫画が原作であり、押井守により「攻殻機動隊」として TVアニメ化された作品です。劇場版アニメは 1995年に「攻殻機動隊 Gost in the shellとして公開されたのが初めてです。
今回紹介する「イノセンス」は 2004 年 3 月 6 日に公開されたもので劇場版第2弾になります。
近未来のテクノロジーと人間の共存がテーマであり、映画「ターミネータ ー」では AIが発展する世の中に警鐘を鳴らすものでしたが、攻殻機動隊に関しては小型戦車 (タチコマ)が AI の完成形として描かれており、人間に対する従順さが印象的な設定になっています。
因みに攻殻機動隊には欠かせない存在となったタチコマはイノセンス本編には出てきません。また、シリーズの主役である草薙素子もゴーストとしての出演にとどまっています。
『イノセンス』あらすじ
主人公は「攻殻機動隊」で中核的役割を務めたバトーです。バトーは全身がサイボーグで圧倒的なパワーを持っている、公安9 課の刑事です。近未来の日本で電脳に関わるあらゆる犯罪を取 り締まる国家の特別組織が「公安9課」です。前作の映画や TV シリーズで主役を務めた少佐・ 草薙素子は義体化された姿が馴染み深いですが、今作『イノセンス』ではゴーストという概念的な姿で登場します。
事件はバトーが担当した、赤い着物を着た少女型の愛玩用ロボットの暴走でした。愛玩用ロボットは、連続殺人(持ち主を惨殺して自殺)を繰り返してしまいます。 バトーは相棒のトグサ(サイボーグではなく人間)と共に関係すると思われる各所に捜査の手を伸ばします。
途中ヤクザの事務所の銃撃戦で構成員を皆殺しにするなど気性の荒いバトーの一面も垣間見られます。 吹聴屋から得た情報からロクス・ソルス社が暗躍していると聴きま す。少女型の愛玩用ロボットはロクス・ソルス社が手がけているプロジェクトで、いずれの事 案も殺害事件であるにも関わらず示談が成立していたのです。
核心に迫るバトーは単独でロクス・ソルス社の潜水コンテナに侵入します。素子の助けを得てバトーは最終決戦に向かいます。
命懸けの救出劇に息を呑む
映画イノセンスでは「ゴースト」と「人身売買」というキーワードが浮き彫りになります。法律で禁止されている、オリジナルの脳のゴーストダビングが実際にロクス・ソルス社で行われていたのです。つまり、愛玩用ロボットにロクス・ソルス社が拉致した少女の記憶が利用され更新されているのです。素子もゴーストである以上そのような法外なリスクを放っておくことはできません。
ストーリー中盤で、バトーがゴーストハッキングされるシーンが出てきますが、素子とバトーとロクス・ソルス社に買われた少女の3人はいずれも近未来の社会のマトリ ックスの中に身を置いているのです。「何が現実の世界なのか」という問題についてはバトーのバディ、トグサにしても同じです。
TV アニメのシリーズでは生身の人間であるトグサですら記憶を塗り替えられている、という展開もありました。めまぐるしい描写とダブル・トリプル で巡る現実乖離はこの作品の見所です。作中、愛玩用ロボットの「助けて」という音声ログを聞いたバトーの命懸けの救出劇に注目です。
社会の闇を知る
人間が電脳を持つことで衰退した社会性と局所的に高いレベルの保安力、荒廃した世界にはびこる社会の闇をテーマとした映画イノセンスは押井守監督が最も懸念し、最も崇拝している近未来の日本の姿でしょう。美しくもオリエンタルな描写と共に監督が描きたかったのは個人が取り込むことのできる情報の限界全てが現実であるということだと思います。
人間とは本来そういうものであり、転生してゴーストになるとしてもやはり、個としての自分は自分のはかりでしか定義できないものなのでしょう。自分の歩む人生だけでなく個としての尊厳(宗教観など)をも考えさせられる大人向けのアニメーション映画です。
文章:Shinichiro.S