出典:©山田胡瓜(秋田書店)/AIの遺電子製作委員会2023
人型ロボットこと、ヒューマノイドが人間と変わらず、普通に暮らす近未来。
ヒューマノイドを専門に診察する須堂新医院・院長の須堂 光(すどう ひかる)は、人間である。
彼の元にやってくる患者には、ある共通点が見られるのだ。
鬱病の患者
モンスタークレーマーの対応で精神を病み、通院していた会社員のヒューマノイド。
ついに耐えられなくなり、辞職を願い出たら・・・「クレーマー対応はプロに任せることになった」と、引き留められたと言う。
その仕事ぶりを見ようと「プロ」の上司と部下に付いていくと・・・
「張り替えた天井の壁紙が、サンプルと違う」というクレーマーに、「誤差の範囲で謝罪には応じられない」という部下。押し問答の末、突然、上司が部下を殴りつけ、涙ながらの土下座での謝罪で事態は有耶無耶に・・・
帰りの車の中で「あなた方は、人間なんですよね?」と訊いても、笑っているだけで彼らは答えない。
結局、人間なの?ヒューマノイドなの?
もやもやした気分だけが残った。
火傷の患者
ある鍛冶職人の元に、ヒューマノイドの「覚えるくん」が派遣された。「伝統工芸の匠の技」を後世に残すためだ。
「見て覚えろ」という鍛冶職人に付きっきりになって、覚えるくんは、どんどん匠の技を吸収していく。
鍛冶職人自身も父親の仕事を見て技を覚えたように。「俺ならもっといいものを作れる」と思いながら覚えたあの頃のように。
最終試験で覚えるくんが作り上げた包丁は、鍛冶職人を唖然とさせるほどの出来栄え。
「うちの道具でも、これほどのものが出来るのか!」
鍛冶職人は覚えるくんに負けじと、いっそう仕事に励むのだった。
思えば、腕の火傷治療で須堂新医院にやってきた覚えるくん。
「この火傷、どうしたんですか?」って訊いただけなのに・・・『鍛冶職人の修行で出来た』の一言で済む話を、長々とされた。
夫の奇行の相談
ある女性が相談に来た。
夫が定期的にお金を振り込んでいる。振込先を訊くと「慈善事業をしているおじさんにお金を送っている」という。
「おじさん」というキーワードに心当たりのある須堂は、医学生時代の仲間・瀬戸を訪ねる。
彼によれば・・・
かつてポルノや酒に依存していたヒューマノイドの夫の電脳をいじって、依存するものを「おじさん」にすり替える治療を行っていた。
同級生の患者だった。
結論を言えば、ヒューマノイドの共通点とは「おしゃべり」である。
いつも後味の悪い気分にさせられる。
「人格を複製販売する行為」は重罪である。悪徳企業に騙され、加担させられた須堂の養母であるヒューマノイドは、その罪で収監中である。
バラまかれたであろう養母のコピーを追って、須堂は海外へ飛ぶ。
須堂先生にとって、いい気分転換になるといいですね。
文章:ヒトツメロバ